三峡ダム開通と課題山積の水利問題
水利部 流水の枯渇と汚染は経済発展の大きな弊害
2006年「全国水資源工作会議」が内モンゴルで開幕した。
会議では、中国の水資源不足が既に経済発展を進める上での弊害となっている
ことが指摘された。一部の地区では、水資源と水をめぐる環境の限界を考慮する
ことなく発展を推し進めた結果、河川の流水がすべて枯れ果て、水が汚染される
という事態を招いた。
最新の評価によると、近年、南方地区における河川の流水と水資源の総量は増
加傾向にあり、5%近くの増加が見られる一方で、北方地区の水資源は12%減少し
ており、特に、黄河、淮河、海河、遼河地区において最も深刻化している。
さらに、北方の一部の流域では、周期的に水不足が進んでいる。相対的に水資
源が豊富な南方地区においても、区域や流域によっては水不足の現象が起きてい
る。
「第十次五カ年計画」期間中、干害による農耕地の被害面積は年平均3.85億ム
ーにも及んだ。毎年、日照りにより穀物の生産が350億キログラム減少し、全国
的には、農村に住む人々のうち3.2億人の飲み水が不安全なままである。
一方、都市では、400余りの都市が水の供給不足の状態にあり、うち110の都市
において深刻化している。2000年と2004年には大規模な干害が起き、多くの都市
が水の使用が逼迫している。
工業、農業ともに生産は大きなダメージを受け、一部の流域と地区では、水汚
染は既に河川の支流から主流に拡大し、地上から地下に浸透している。そして、
水汚染は、陸域から海域に、都市から農村に進展し、東部から西部に拡大してい
る。
井戸水でかんがいをする区域を中心として形成された地下水掘り出し区域の数
は、1980年代初めに56区域だったものが、現在は164区域に上っている。掘り出
し面積は、8.7万平方キロメートルから18万平方キロメートルに拡大している。
一部の生態悪化地区においては、流水が断絶し、湖は枯れ果て、湿地は縮小し、
オアシスが消滅しているという。
これらの現状の背景として、中国は、水の使用効率が悪く、世界基準と比較す
ると、大きな差があるという事実がある。
水利部の胡四一・副部長は、水資源の主な問題点を以下のように述べている。
1) 「持続可能な発展」の意識が欠けている
一部の地区では、水資源と水を取り巻く環境の限界を考えず、経済社会の発展
を進める上で相変わらず水資源に頼っている。しかし、盲目的な発展や過度に水
資源を消耗することは、水を取り巻く環境を犠牲にしながら経済成長を進めるこ
とであり、その結果、すべての河川は枯れ果て、水は汚染されるという最悪の結
果を招いてしまう。
2) 経済成長の進め方や消費モデルが大まかであり、水資源の利用は「三高二
低」の状態にある。
つまり、開発や各部門の製品・サービスは水の利用率が高く、汚水の排出率も
高い一方で、水利用の効率と効果は低いという状態である。
3) 水資源の管理が厳格な基準に達していない
取水許可の検査基準が甘く、取水量は随意で、科学的な観点から制限されてい
るわけではない。その一方で、定められた使用許可の基準に届かないため、いま
だに水資源使用許可を求めている建設プロジェクトも存在する。
つまり、行政による計画用水、節水の管理制度は不安定であり、行政は水資源
を保全する役割を果たせていない。
4) 水資源の管理制度が機能していない
長期にわたって行政を主体とした管理方式に依存してきたため、市場的手法を
発揮できずにいる。また、水道料金のアップが水資源の節約・保全を促すなどと
いった経済的手段が生かされておらず、水資源の管理領域において政府が効果を
上げていないことは明確である。
水資源の開発利用には水の節約と保全の概念が含まれておらず、一般市民は水
資源の管理にかかわっていない。水資源不足や水汚染などの主な問題に関しても
有効な解決方法がない。
5) 水資源のモニタリングが行き届いていない
河川の水資源を開発に利用する権利の帰属が曖昧なため、区域の水資源の開発
利用をめぐって無秩序な争いが起きている。
水資源の保全においては、責任と利益の両方を請け負う主体がいないのが現状
であり、生態や環境を守るための水資源の確保は保証されていない。そのため、
流域や区域のモニタリング手段が少なく、水資源の保全を効果的にコントロール
することが困難である。
また、水資源の管理において、「都市と農村の格差」や「部門間の格差」そし
て、「政治が前に出過ぎる」などの問題が依然として存在している。
6) 水資源管理への投資に対する保障がない
これまでの投資と新しい治水構想が二律背反し、水資源の節約や保全など、新
しい構想が「建設プロジェクト」の内容には含まれていない。
また、財政からの補助もなく、水資源管理の計画や試験は財源不足のために効
果的な発展を遂げることが困難である。
〔中国青年報5月29日〕
総投資概算2039億 三峡の巨額投資は中国の足手まといになるか?
三峡プロジェクトはその規模が壮大で、経済効果もはっきりしている。関連分
野が多岐に渡り、その影響の大きさはまさに世の中を驚かせるものだ。
5月20日に三峡ダムが完成し、人々が心配してきた懸案も今徐々に開かれよう
としている。
1) 三峡プロジェクトの総投資額は概算で2039億元という空前の規模で、中国経
済に有形無形の影響を与えた。目下の状況から見れば、三峡プロジェクトの投資
総額は1800億元以内に調整されるものと見られ、計画よりも200億元強少なく、
プロジェクトの投資下限を守った。
中国三峡総公司の李永安総経理は、市場経済方式でのプロジェクト建設が、三
峡プロジェクト投資調整の制度的保障となったと考えている。1999年より、三峡
総公司は短期臨時のブリッジローンを使用し、同時に国内銀行間で市場競争メカ
ニズムを取り入れて、ローン利率の優遇政策をかち取り、各商業銀行は三峡総公
司に対してローン利率を10%下げることを承諾した。二期プロジェクトが開始さ
れてから、三峡総公司は企業債を発行することを重要な資金調達手段とし、6期
総額190元の三峡債券を発行した。
事実上、昨年の中国の財政収入は3兆元の大台を突破して、12年前に比べて、
国家財政は大きく増加している。
2) 電力供給が中国の半分を明るくするか
中国工程院の徐乾清・院士は「三峡プロジェクトは中国の半分を明るくする」
と話す。それは、三峡ダムの送電半径が中国の半分をカバーするということを指
しているのであって、発電量のことではない。
三峡配送電プロジェクトの建設は三峡電力の外部への送電を担保しているだけ
ではなくて、三峡送電ネットワークを中心とした全国電力ネットワークの形成を
促進し、西電東送の3ルートのうちの中ルートの建設目標の実現を推進、加速し、
中国の配送電プロジェクトの建設水準を全面的に向上させるという重要な役割が
ある。
2006年5月18日現在、三峡配送電プロジェクトの累計送電量は1100億キロワッ
ト時を超え、絶えず長江の流れのように、華中、華東、華南、西南地域の8省2市
に送電している。
現在、三峡プロジェクト左岸の14台の発電ユニットは既に電力系統につながれ
て発電している。渇水期であったとしても、これらの発電ユニットの1日当たり
の発電量は1億キロワット時に達し、それは北京の1日当たりの消費電力に相当す
る。豊水期における発電量は、1日当たり2.3億キロワット時である。3年後には
ダムの貯水は175メートルに達し、26台の機械ユニットがすべて稼働した後は、
年間発電量は847億キロワット時に達する。
3) 洪水防止プロジェクトは水害を防止することができるのか
洪水防止は三峡プロジェクトの最も重要な役割である。プロジェクト建設完成
後、長江上流の洪水を有効にコントロールし、長江の荊江流域の洪水防止基準を
現在の10年に1度から100年に1度へと高め、長江の中流、下流の平野部に住む1500
万人、150万ヘクタールの耕地を洪水の猛威から守る。
三峡プロジェクトは2年前倒して洪水防止効果を発揮し、今年の増水期には、
三峡ダムは100年に1回の大洪水を防ぐ能力を持った。今年の増水期以後はダムの
水位は135メートルから156メートルに上昇し、ダム貯水容量73億立方メートル増
加し、これは長江の荊江水系の洪水能力に相当するようになる。
三峡プロジェクトが竣工した後、ダムの正常水位は175メートルまで上昇し、
ダムの総貯水容量393億立方メートル、そのうち洪水を防止する調節容量が221.5
億立方メートルとなる。このような巨大な洪水防止貯水容量はの調整可能なピー
ク流量は毎秒2万7000立方メートルから3万3000立方メートルで、世界の水利プロ
ジェクトの最大規模となっている。
4) 峡江の景観はこれまでどおりか
三峡プロジェクトダムのダムサイトがある西陵峡の中上段は、三峡プロジェク
トで貯水された後、水没により、事実上3峡の2.5峡、つまり、瞿塘峡、巫峡、西
陵峡の上半分に影響がない。
三峡両岸の山地は海抜1000メートルから1500メートルで、険しく、河谷は狭く、
水位を30メートルから80メートル上昇したとしても、峡谷の威容は少しもなくな
ることはなく、自然景観は存在しており、全体の構造が変わることはあり得ない。
三峡プロジェクトの建設とダム地域の観光資源の開発に伴い、三峡江と三峡ダ
ムの両岸の幽谷の奥深くに一つの新しい景観が相次いで出現する。この観光スポ
ットは既に観光客が訪れており、まさに建設中のところもある。そのほか、要衝
プロジェクトが完成した後、も三峡旅行の壮大な景観となるであろう。
今年の4月までで三峡への観光客は急速に増加している。旅行部門の予測では、
今年の三峡の観光客は延べ100万人を超えそうである。
5) 万トンのタイヤはいつ重慶に着くのか
専門家の統計によると、2015年以降、現在の2つの閘門(シップロック)は水
上輸送のニーズに適応できないという。この状況によって「万トン級の船が武漢
から重慶へ直航」という青写真は実現できるのだろうか?。
三峡総公司の曹広晶副総経理によると、ダム貯水後のダム地域の水運条件は大
きく改善され、貨物コストを下げ、河川水運事業の急激な発展を促進するとして
いる。
2列5段の多段式閘門が2003年6月16日に開通して以降、絶えず運航調節を改善
し、潜在力を掘り起こし、通行能力が徐々に高まり、急激に増加する水上輸送の
ニーズを満たしている。
今年の3月31日現在で、累計延べ2万3463回の運航があり、通航船舶は延べ18.8
万隻、貨物輸送量は8886万トン、旅客輸送量は延べ525万人となっている。
三峡の貯水が予定の水位に達するに伴って、万トン級の船舶が武漢から重慶へ
と直航するという壮大な青写真が現実となる。
〔新華網5月24日〕
長江の洪水防止に憂慮 三峡ダムの洪水防止目標は達成できていない 上
三峡ダムは先日すべて完成したが、長江の中下流の洪水防止は問題ないのだろ
うか?。
俗に「干ばつが長く続くと、その後必ず大洪水が起こる」。ここ数年来各地で
干ばつが続いているが、洪水防止状況はどうなっているだろうか?。
5月30日に国家洪水干害防止総指揮部事務総長、水利部の鄂竟平副部長に対し
て取材を行った。
〈長江の洪水防止情は憂慮すべき〉
▼記者:5月20日14時、三峡プロジェクトの右岸の最後のコンクリート工事が終
了しました。三峡ダム全線は高さ185メートルで設計されており、予定より早く
全線の工程が完成しています。報道によると、三峡ダムが完成すると100年に1度
の洪水も防止できるということですが、これについての御意見をお聞かせくださ
い。
▼鄂竟平副部長:三峡プロジェクトの総貯水容量は293億立方メートルで、その
中の洪水防止の貯水容量は221.5億立方メートルです。下流の洪水防止状況を改
善し、工事が完成し正常に貯水されれば、荊江水系の洪水防止基準は10年に1度
規模から100年に1度規模へと基準が上がり、中流地区の遊水地での洪水分流の確
率、遊水地へ注ぎ込む水量を大幅に減らせるようになります。
1870年に起こった史上最大の洪水のような、1000年に1度規模の洪水でも、荊
江地区の遊水地の運用により、荊江水系で起こったような堤防決壊のような壊滅
的な災害の発生を効果的に防止することはできます。また、武漢など流域重要都
市の洪水を防止し、災害防止を保障できるようになります。
しかし、三峡ダムの建設完了は三峡プロジェクト全体の建設が終わったという
意味ではなく、現在の洪水防止、減災能力は設計最終の洪水防止目標にはまだ遠
いと言えます。
2つの閘門建設、導水穴の封鎖、移住者、ダム地区地質災害工事などが現在ま
だ建設途上です。これらがすべて完成すれば、三峡ダムはようやく設計されてい
る高さの水位に貯水することができ、設計時の最終的な洪水防止効果と利益を発
揮することができるようになります。
今年の豊水期は、三峡プロジェクトはまだ工事中でした。三峡ダムの今年豊水
期の最高貯水水位は156メートル以下ですが、安全確保のため150メートル以下、
72.9億立方メートルの貯水容量にしていました。
荊江水系の洪水防止基準は20年に1度規模の洪水に対処できるだけです。
今年の三峡プロジェクトの洪水防止作用は有限で、まだ設計時の最後的な洪水
防止目標には達していません。一部メディアは、今年より三峡ダムが100年に1度
規模の洪水を防止できるといういいかげんな報道をしていますが、これは正確な
報道ではありません。三峡プロジェクトのすべてがすべて完成してからしかでき
ないことだからです。
▼記者:三峡プロジェクトがすべて完了したら、長江の中下流は洪水防止につい
ては安心できるのでしょうか?
▼鄂竟平副部長:長江の中下流で起こる洪水の目立った特徴は、水量が大変多い
ことにあります。河川の安全排出量が完全に不足しています。たとえ三峡プロジ
ェクトが完成しても、長江のピーク流量問題を完全に解決することはできないで
しょう。
そのほか、三峡ダムには80万平方キロメートルの遊水地があります。1954年型
の巨大な洪水が起こっていたとき、三峡プロジェクトが完成していたら、最終的
な洪水防止効果を発揮して、中下流で300数億立方メートル以上のピーク流量を
洪水分流し、遊水地へ注ぎ込み、解決されます。
計画では、長江の中下流の40カ所に遊水地の建設が予定されていますが、現時
点では、地区内の住民の安全や人命救助に対する政策はおくれており、洪水分流
には多くの人々の移転が必要です。
多くの遊水地では、まだ洪水調節のための水門がつくられていないので、洪水
が起こったときに、急に洪水分流しなければならなくなり、大変に難しい問題だ
といえます。
さらに、長江の中下流の支流の堤防は比較的脆弱で、主流の堤防決壊問題も際
立っています。たとえ三峡プロジェクトが完成しても、長江の中下流の地区の洪
水防止は依然として困難で、決して安心できるような状況ではありません。
〈長江流域の洪水防止問題はすべて未解決〉
▼記者:1998年に長江流域で巨大な洪水が発生した後、国家は巨額の資金を投入
して、洪水防止工事の建設を強化しましたが、現在長江の洪水防止問題は基本的
に解決したのでしょうか?
▼鄂竟平副部長:長江流域は既にダム、堤防、遊水地、河岸工事、工事によらな
い洪水防止・減災の体系整備の初歩段階はできており、洪水防止能力は明らかに
高まっています。しかし、洪水防止問題のすべてを解決したわけではなく、依然
として幾つかの明確な問題が存在します。
1) 長江の河水処理能力が低く、洪水水量が多いので、三峡プロジェクトがすべ
て完了しても、遊水地での洪水分流は重要な方法である。
洪水の遊水地には大量の人口が居住しており、多くはかなり繁栄しており、洪
水分流による人命救助施設はかなり不十分。遊水地での洪水分流や排水施設はと
ても少なく、洪水が起こったときうまく洪水分流することは難しい。
2) 支流の堤防は脆弱で、高さも不足しており、埋め立ての質も悪く、洪水防止
基準としては低い。多くの支流の堤防は、実際には主流の堤防と同一範囲を保護
しているが、主流の堤防と同じ洪水防止措置がされていないので、結局主流全体
の洪水防止効果を下げてしまう。
そのほか、長江主流の堤防破損状況は深刻で、昨年既に荊江堤防の文村夾、江
陵の西流堤、石首の調関磯頭、華容県の天字一号などの多くで比較的大規模の破
損が見られ、堤防は危険な状況になっている。堤防の基礎部分が崩壊しそうなも
のもあり、長江堤防の安全を脅かしている。
3) 現在、長江流域の中小の河川と中小のダムの洪水防止問題が顕著である。中
小の都市の洪水防止基準はとても低く、普通は3年―20年に1度規模の洪水しか防
御できない。
山地帯の鉄砲水による災害は毎年多くの死傷者を出し、経済的な損失をもたら
している。2005年、長江流域の中小の河川で鉄砲水が起き、多くの都市が浸水し
た。
長江流域の4万数基の中小ダムのうち3分の1の洪水防止基準は低く、工事の質
も悪く、交通と緊急通信が円滑ではないなどの問題があります。
4) 多くの都市で田畑の排水基準がとても低く、雨の後にたまった水は深刻な問
題で、浸水問題が顕著である。
2004年9月、上海、成都、南京などの大中都市が暴風雨などの天候による影響
で、浸水被害により、交通まひ、通信まひが起こり、死傷者を出し、経済的な損
失をこうむっている。南昌市は今年4月中旬にも、短時間の暴風雨で浸水が起き
ている。
5) 一部地方には長年洪水が来ていない。それどころか毎年干ばつが続き、指導
者層も住民も警戒心を緩め、巨大な洪水を迎え撃つ心構えは十分ではない。働き
盛りの多くは出稼ぎに出ており、洪水防止、災害救助隊の組織も困難になっている。
〔新華網5月31日〕
(次号に続く)
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