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電子マガジン・中国最新情報
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教育・文化ウオッチ@中国最新情報 No.802 2023年10月3週号
発行:《中国最新情報》編集部 http://www.bizchina.jp/
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━【目次】━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
┏【特集:就職と結婚の統計公表に見る社会変化】
●統計局が若年者失業率の公表を停止 就業率や初婚率は継続的に下降
●中国婚姻家庭報告2023 婚姻届数は9年連続減少

┏【国際】
●葛兆光 中国を知るためになぜ多くの「鏡」が必要なのか
●イタリア人教授 中国古典を学び中伊両国の「架け橋」となる

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……【特集:就職と結婚の統計公表に見る社会変化】………………………………
●統計局が若年者失業率の公表を停止 就業率や初婚率は継続的に下降
 近年、大学生の増加と雇用市場の不安定化により、若年層の失業率が絶えず上昇
している。政府統計局は、主に以下の理由により、若者のセグメント別失業率デー
タの公表を停止した。

1) 計算ルールと調査グループのニーズを調整する
 現在の18歳から20代前半の若者は昔とは大きく異なる。より多くの若者が大学進
学を選択し、大学生が多くの割合を占める。このため、彼らは既に失業者または雇
用者として数えられない。統計学者らは、若年者失業率をより正確に反映するため
には、若年者失業率計算ルールや調査グループをより正確かつ合理的に調整し、実
態に適合させる必要があると考えている。

 なお、今日の若者は昔の若者とは大きく異なり、雇用に対する期待が高く、個人
的な興味や成長をより重視している。そのため、彼らはただ仕事を探すのではなく、
自分に合った仕事を選びたいと考えている。これは、彼らがより多くの時間を費や
して理想の仕事を探したり、さらなる研鑽を積んで自身の競争力を高める選択をし
たりする可能性があることを意味する。このような状況が、若者の失業率の計算を
より複雑かつ困難にしている。

2) 「異地就業」が統計に与える不都合
 多くの卒業生は、戸籍所在地以外の場所で働くことを選択する。これは「異地就
業」と呼ばれている。しかしながら、こうした雇用状況は統計データの取得に一定
の困難をもたらし、卒業生の就労状況を客観的かつ完全に示すことも困難である。
そのため、統計局はデータの歪曲や不正確さを避けるため、若者の失業データの公
表を一時停止した。

3) 雇用形態の変化は従来の統計タイプに適応しない
 今日、職場や雇用形態は常に進化し、変化している。従来の統計タイプは既に現
在の状況に適用できなくなった。例えば、幾つかの新興産業では、一部の非伝統的
な雇用形態が雇用データに取り込まれていない可能性がある。このため、統計局は
雇用形態の変化に適応するために統計手法と指標を再調整するため、若者の失業デ
ータの公表を一時停止した。
 例えば、インターネットに代表される新興産業は、若者により多くの雇用の機会
をもたらすだけでなく、従来の雇用形態にも変化をもたらした。多くの若者がイン
ターネット業界で起業したりフリーランスになることを選択したりしているが、こ
の雇用形態は往々にして従来の統計タイプには考慮されにくい。
〔小翠聊教育2023年8月20日〕

●中国婚姻家庭報告2023 婚姻届件数は9年連続減少
 育〓人口研究シンクタンクはこのほど、「中国婚姻家庭報告2023年版」を発表し、
中国の婚姻届件数は9年連続で減少し、未婚同棲率が上昇していると指摘した。

 報告書は、中国の婚姻率は2000年の6.7%から2013年の9.9%に上昇した後、年々低
下し、2022年には婚姻率は4.8%に低下し、離婚率は2000年の0.96%から2020年には
3.1%に上昇したが、2021年の離婚率は2.0%に下降したと指摘した。

 初婚数は2013年の2386万人をピークに減少を続け、2021年には1158万件と2013年
に比べて51.5%減少した。2013年の婚姻届件数は1347万組だったが、2022年には683
万組に下降し、9年連続で減少した。
 初婚年齢も上昇しており、1990年には中国の男性の平均初婚年齢は23.59歳、女
性は22.15歳だったが、2000年には男性の平均初婚年齢は25.11歳、女性は23.28歳
まで上昇した。2020年までに、男性の平均初婚年齢は29.38歳に上昇し、女性は27.95
歳に上昇した。

 2009年から2013年にかけて、20―39歳までの女性人口のうち、既婚女性の割合は
77.93%から67.06%に下降したが、2019年には再び72.72%に上昇した。2019年の中国
の30―34歳の男性の未婚率は18.16%、女性の未婚率は8.7%で、ほとんどの先進国よ
りも低い。

 同時に、中国では未婚の同棲率が上昇し続けている。2018年の中国家庭追跡調査
データによると、1980―1984年生まれの男性の未婚同棲率は33.33%、女性の未婚同
棲率は26.79%で、1985―1989年生まれの男性の未婚同棲率は37.99%、女性は33.13%
であった。
注)〓は、おんなへんと、「口」の下に「内」
〔中国経営報2023年8月4日〕

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……【国際】………………………………………………………………………………
●葛兆光 中国を知るためになぜ多くの「鏡」が必要なのか
 古代中国と世界の関係をどのように評価すべきか。今日、中国と世界がともに文
明を築き、「同じビートで踊る」ために、互いを理解し合う必要があるのはなぜか。
 先ごろ、復旦大学文学歴史研究院兼史学部リベラルアーツ上級教授である葛兆光
氏、「古代中国の世界知識〜15―17世紀の3幅の地図から〜」と題する講演を行っ
た後、中新社の「東西問」の独占インタビューに応じ、このテーマについて詳しく
語ってくれた。

 インタビューの概要は以下のとおり。

中新社記者:古代中国が閉鎖的か開放的かについては、学術界でも常に意見が分か
れていますが、古代中国と世界との関係についてはどのように捉えていますか。

葛兆光:「閉鎖的」と「開放的」という用語は単純過ぎます。
 以前の中国は非常に閉鎖的であると考えられていました。しかし、最近、イェー
ル大学のヴァレリー・ハンセンが著書に書いたように、1500年以前の中国は「開か
れた帝国」であったと言われています。古代中国を理解するために、単純にこの2
つの極端な概念を使用すべきではないと思います。
 実際、洋の東西を問わず全ての文明がそうであるように、当初、人々は自分たち
のことを念頭に置いて世界を想像していました。古代中国では、世界は華夏九州と
その周辺で構成されており、自分のいる場所が世界と文明の中心であると考えられ
ました。世界は渦巻状に広がっていき、遠くに行くほど不毛の地となり、文明のレ
ベルも低くなるということを示しています。春秋戦国時代のころになると、「夷
狄」に対する「中国」という概念が形成され、中国の世界という概念が生まれました。
 これも古代中国は閉鎖的であったという考えにつながりました。

 しかし、実際には、大航海時代よりもずっと以前から、古代中国人は世界につい
て豊富な知識を持っていました。
 例えば、日本の京都にある龍谷大学には、元の時代の中国人が描いた「声教広被
図」及び「混一彊理図」2枚の地図に基づいて1402年に李氏朝鮮によって作成され
た「混一彊理歴代国都之図」というコレクションが所蔵されています。この地図に
は、現在の中央アジア、西アジア、アフリカ、ヨーロッパが描かれ、何百もの地名
が確認でき、逆円錐形のアフリカ大陸、ほぼ正確なアラビア半島の形、ペルシャ湾
に注ぐチグリス川とユーフラテス川まで描かれています。更に驚くべきことに、こ
の地図にはローマやパリといったヨーロッパの都市も記されています。
 実に、鄭和が西洋への最初の航海に出たのは、それからわずか3年後の1405年の
ことでした。ポルトガル人のバルトメロウ・ディアスが喜望峰を回り、インドへの
航路を発見するまでには更に80年以上かかりました。1508年版のプトレマイオス
「地理学」まで、逆円錐形のアフリカの完全な地図を描いたヨーロッパ人はいなか
ったという学者もいます。これは、古代中国の世界地理に関する知識が、華夏九州
や中国近隣に限定されたものではなかったことを示すのに十分です。

 この知識はどこから来たのでしょうか。学者の研究によると、「混一彊理歴代国
都之図」に記載されている地理的知識は、元の時代にイスラム教徒であるアラブや
ペルシャの人々によって中国にもたらされた可能性があるといいます。
 「元史」には、1267年にはペルシア人のザマルディンが元の皇帝のために木製の
地球儀をつくり、その後大きな地図を描いたことが記録されています。当時の中国
が既に多くの世界に対する知識を持っていたことがわかります。
 それだけでなく、16世紀の嘉靖年間に描かれた「蒙古山水地図」(別名「シルク
ロード山水図」)には、西の嘉峪関から、中央アジア、西アジアを経て、メッカ
(天方)までの地名が記されていて、イスラム教徒の巡礼の道だった可能性があり
ます。
 17世紀初頭、明の万暦年間に描かれた「セルドン中国地図」は、中国商人の手に
なるもので、南シナ海を中心とした東アジアの海がはっきりと描かれており、泉州
から東シナ海及び南シナ海の各地に向かう6つの航路があり、最も遠い航路はイン
ドのコルカタ(カルカッタ)に達しています。この2つの地図は、実際には古代中
国が「世界進出」した後に得た知識です。

 しかし、同時に、古代中国が世界地理に関する豊かな知識を有していたことに相
応して、「世界の中心」という伝統的な概念が何千年もの間、根強く残っていたと
見るべきでしょう。したがって、知識があるということは、開放という概念の意味
ではありません。これは、古代中国が非常に早くから統一帝国を形成し、強力な文
化的伝統を持っていたためです。
 仏教がもたらした「半分」影響を除けば、真に強力な外の文明に挑戦されたこと
がなく、常に非常に自信を持ってきたからです。中国文明は極めて体系的で成熟し
ているため、常に「伝統の中での変化」、つまり常に自己調整を行っており、「伝
統の外での変化」、つまり内的なものが外的にあらわれるため、根本的な変化を行
うことは困難なのです。

中新社記者:人間が自分を中心にして世界を理解するならば、東洋と西洋における
「自己中心的な見方」とそのあらわれ方の違いは何でしょうか。

葛兆光:シカゴ大学の宗教史家である故ミルチャ・エリアーデ氏はかつて、自己中
心的に世界を見ることは、人間が直立歩行をするようになってから生まれた重要な
特徴であると語りました。それが外界に対する態度に反映されているとすれば、実
は初期段階では同じです。
 中世ヨーロッパのTOマップは、実際にはエルサレムを中心としたユーラシアとア
フリカ世界が描かれていました。古代中国も同様で、中国が中心であり、その周囲
を蛮夷や戎狄が取り囲んでいると考えられていました。
 そのため、古代中国の成熟した文明と強い自信に基づいて、長い間「中国」も一
つの「文明」であり、古代中国の一部の人々は「中国によって夷狄を変える」、つ
まり外国を自分たちの文明に同化させるべきだと考えていました。
 そのため、この国と外国の地理的な区分は、文明の遠くへの伝播や後退により、
絶えず変化することになります。

 しかし、大航海時代以降、陸を通じて広がった古代文明とは異なり、近代に台頭
した西洋の新帝国は、海を通じて世界を征服しました。15世紀以降も、ポルトガル
とスペイン、それにオランダと英国が続き、宣教師、貿易商、入植者たちによって、
海、港、島を通じて資源を略奪し、宗教を広め、政治制度を導入していきました。

 実際、現代に至るまで、グローバル化が非常に深化したとはいえ、東洋と西洋の
「自己中心的」な世界観が機能している場面は少なくありません。ハンティントン
の「文明の衝突」には多くの賢明な予測があるが、将来、イスラム文明と儒教文明
が手を携えて、キリスト教を主体とする西洋文明と衝突すると考えており、それは
西洋中心の立場に立っているのです。
 そして、私たちの中には、無意識のうちに中華文明の自己優位性があらわれる人
も出てくるでしょう。多くの文明が共存する世界で、どのようにして独自の文化を
守り、共通の普遍的な文明を築くことができるのでしょうか。私の考えでは、東洋
と西洋の「自己中心的」な世界観を見直す必要があります。


中新社記者:では、意識を変えない限り、文明間の衝突は避けられないとお考えで
しょうか。

葛兆光:ハンティントンの話に戻します。著書の「文明の衝突と世界秩序の再構
築」の中で、文明の核心は宗教であり、イスラム教とキリスト教はそれぞれ唯一の
最高神を信仰しており、どちらも絶対性と神聖性を持っているため、衝突は避けら
れないと述べています。
 しかし、実は別の事情もあり、例えば中国では、歴史的には世を治める儒教、身
を修める道教、心を修める仏教という3つの宗教が調和し、いずれも皇帝権力のも
とで、政治主体で宗教が補佐をするという全く異なる歴史的現象がありました。し
たがって、宗教的な観点からすれば、「文明の衝突」という言葉は見直す必要があ
ります。

 ハンティントンがもう一つ見過ごしたのは、「文化」と「文明」を区別していな
かったことですが、これも現代人が陥りがちな誤解です。
 ドイツの学者エリアスの言葉をかりれば、文化とは民族的で特別で多様なもので
あり、全ての民族が自分の文化が非常にすぐれているという自信と誇りを持つこと
はできるが、誰かの文化がよりすぐれているということは言えません。
 そして、文明は、誰もが同じルールのもとで共有されるべきものであり、対等な
立場で交流し、尊重し合うものであるべきです。文明とは、だれもが同じビートで
踊らなければならないことを意味し、足かせをつけて踊っているとも言えますが、
誰も束縛されることを望んでいませんが、互いの足を踏まないようにするためのル
ールなのです。
 グローバル化の時代には、全ての国、民族、そして個人でさえも、他の国、民族、
人々とつき合わなければなりません。ルールがなければ輪が生まれませんし、文明
がなければ紛争は起こりますが、文明のルールを守ることで紛争は回避できます。

 したがって、ハンティントンのいわゆる「文明の衝突」は、実際には異なる文化
間の衝突です。共通のルールのもとで、それぞれが独自の文化を維持し、互いの文
化を尊重できれば、多くの紛争を避けることができるのではないでしょうか。


中新社記者:先生は以前、「周辺から中国を見る」べきだと提言されましたが、こ
の視点は、今日の中国と世界との関係を改めて考える上でどのように役立つのでし
ょうか。

葛兆光:私たちは長い間、中体西用(中学を体とし、西学を用となす)、中国と西
洋の対比など中国と西洋を対照的な位置に置き論じることになれてきましたが、西
洋という一つの文脈から中国を理解するのは単純過ぎると思います。
 実際、西洋にも多くの国があり、文化も大きく異なり一概には言えませんが、東
洋でも同様に多くの国、民族、文化があり、その違いも非常に大きいのです。日本、
北朝鮮、インド、ベトナムなどの近隣諸国を通した視点から見ると、自分自身をよ
り明確に見ることができるでしょうか。
 歴史的に、中国の自己理解は2つの段階を経てきました。第1段階は自己想像を通
じて中国自身を理解することであり、第2段階は西洋という鏡を通して中国自身を
理解することです。今、私たちは第3段階に入り、自分自身を理解するためにより
多くの「鏡」を使用したいと考えています。

 これは私が2007年に提唱した考え方です。当時、この考え方は多くの反響を呼び、
近年では中国における研究の発展も促進されましたが、研究が中国に焦点を当てな
くなったとすれば、これは進歩と言えます。

 しかし、近隣の国や文化に関する私たちの知識がまだまだ不十分であることにか
わりありません。私たちは世界についてもっと知る必要があります。
 他者の目、多様な視点、そして複雑な情報によって、私たちは過去に曖昧にされ
たかもしれない中国を再認識し、私たち自身の認識と組み合わせることで、中国と
世界に関する包括的な知識を形成することができるのです。
 その上で、中国の歴史学術界の視点は、世界の他の地域からの視点と相互に補完
し合い、さらに客観的で完全な世界認識を形成することができるでしょう。
〔中国新聞網2023年9月25日〕

●イタリア人教授 中国古典を学び中伊両国の「架け橋」となる
 2000年以上前、古代シルクロードは数千キロも離れた中国と古代ローマを結んだ。
700年以上前には、マルコ・ポーロの「東方見聞録」が西洋史上初の「中国ブーム」
を引き起こした。

 長い間、東西文明は、山や海を越えて絶えることのない交流を通じて、人類文明
の永続的な発展を促してきた。グローバル化と情報化により世界中が同じ「地球
村」に住むようになった今日、東西文明の交流には新たな障壁が出現し、「デカッ
プリング」(分断)を主張したり、「スモールヤード・ハイフェンス」(限定され
た先端技術を厳重に管理する仕組み)を構築したりというさまざまな「文明衝突
論」や「脅威論」が蔓延している。

 歴史における東西文明の交流は、今日の世界に何を啓示してくれるのだろうか。
「和して同ぜず」という中国文明を、西洋はどのように真に理解しているのか。こ
れに関連して、中新社の「東西問 中外対話」は、イタリアのベネチア大学長のテ
ィツィアナ・リッピエッロ(Tiziana・Lippiello)教授と復旦大学哲学院長の孫向
晨教授を招いて対談を行った。

 対談の概要は以下のとおり。

〈西洋は、中国古代の書籍から中国を読み解こう〉
中新社記者:リッピエッロ教授は19歳から中国語を学び、古代中国語と古代哲学を
研究されています。中国の儒学の経典「論語」と「中庸」をイタリア語に翻訳もさ
れたそうですが、なぜこの2つの古代中国の経典を翻訳しようと思ったのですか。

リッピエッロ:この2つの著作には、中国の政治思想と倫理の核心的価値観が含ま
れており、これを読むことは、外国の学生が中国人の考え方や生き方を理解する上
で重要であると同時に、中国文学を学ぶ上でも有益であるからです。
 古代中国の経典を翻訳したイタリア人は私が初めてではなく、400年以上前にイ
タリア人のマテオ・リッチが中国の「四書」をラテン語に翻訳しています。

孫向晨:リッピエッロ教授が翻訳した2つの経典は非常に重要であり、「論語」は
中国の伝統的な知識人が学ぶべき主要な経典と言うべきものであります。歴史には
「論語の半分が世界を支配する」という格言があります。「論語」の思想は、慣用
句や言語を通じて中国人の思想や行動に浸透しています。
 「中庸」も非常に重要で、「形而上学」を解説した著作で、「道は人に遠から
ず」「中和(ちゅうか)を致して、天地位(くらい)し、万物育つ」、これらは全
て中国人の方法論です。
 リッピエッロ教授が「論語」と「中庸」をイタリア語に翻訳したことは、西洋世
界が中国人の考え方や行動を理解する上で非常に有益だと思います。


中新社記者:今、中国はなぜ古代中国人の思想を西洋に紹介するのでしょうか。こ
れらの経典には、今の世界にとって教訓とするものがあるのでしょうか。

孫向晨:グローバル化の時代、「地球村」である今、私たちは互いをより深く理解
する必要があります。ここでいう「深く」とは、現代の経済社会に関する知識にと
どまらず、異なる文明が育んできたさまざまな考え方をより深く理解すべきである
ということです。歴史に残る古典作品には、中国文明の考え方や行動様式が含まれ
ています。

 例えば、「道は人に遠からじ」というと、中国人は特に抽象的な道理を追求する
のではなく、身の回りの道理から出発することが多いのです。
 例えば、中国人の仕事のやり方では、「試行」がよく行われます。抽象的な理念
で一気に推進するのではなく、まずは試験的な取り組みをします。もし西洋人が古
代中国の古典からこのような考え方を学び、理解することができれば、中国人の行
動をより深く理解することができるのです。

〈「和して同ぜず」今日の世界における重要な教訓〉
中新社記者:リッピエッロ教授、中国儒学思想の中で、最も心を揺さぶられたのは
何ですか。

リッピエッロ:中国文明の多様性に対する態度と人類の異なる文明間の相互寛容に
対する理解は重要な意味を持っています。「論語」の「和して同ぜず」という言葉
がとても好きです。これは、同じ考えを押しつけず、人間同士の調和と平和を求め
るものです。私たちは全く同じである必要はなく、多様性を受け入れるとともに、
開放性、協調性、包摂性を奨励すべきで、今日の世界はこのために努力すべきなの
です。

中新社記者:中国とイタリアは東西文明をそれぞれ代表する国ですが、中国とイタ
リアの歴史的交流は今日の世界にとってどのような意味を持つのでしょうか。

リッピエッロ:中国には古くからローマ帝国に関する記録があり、中国人はかつて
ローマ帝国を「大秦国」と呼んでいました。1世紀末、中国漢代の将軍であった班
超が「大秦国」を探し求めて使者として甘英を派遣しており、古代中国の歴史には
ローマ使節が中国を訪れた記録も数多く残っています。
 西洋の古い文献では「絹」を意味するラテン語のseres(セレス)が中国を指す
言葉として使われ、のちにマルコ・ポーロがイタリアと中国の交流の象徴的な人物
となるなど、両国の長い交流の歴史を物語っています。

孫向晨:歴史的に見れば、ヨーロッパの古代ローマ文明と漢代の中国文明は、統合
的であって、すばらしい文化を創造し、非常に大きな影響を残しました。ローマ帝
国が崩壊した後も、ヨーロッパには古代ローマ文明の痕跡が今なお残っています。
 これは中国でも同様で、現在「漢語」「漢字」などと呼ばれており、漢代の文明
の影響が広範囲に及んでいることがわかります。私たちは、ヨーロッパ文明と中国
文明の歴史的起源と相互交流の啓示についてもっと深く研究し、考える必要があり
ます。


中新社記者:歴史的には、東西文明は山や海を越えて輝かしい交流の歴史がありま
す。しかし、現代では、交通が便利になり、交流は頻繁に行われるようになった一
方で、東西交流には新たな困難が生じていて、「デカップリング」という論調さえ
あります。この現象をどのように見ていますか。

リッピエッロ:いわゆる「デカップリング」論は捨てて、今日の世界共通の課題に
取り組む努力をすべきです。互いの文化についての相互理解を深めることが、多様
性を理解し手を携えて、ともに歩む唯一の方法だと思います。特に若い世代の文化
交流は非常に重要であり、より多くの若者に異なる文明の歴史や文化を知ってもら
う必要があります。

孫向晨:若者同士の交流といえば、復旦大学哲学院には「マテオ・リッチ徐光啓学
社(徐光啓―マテオ・リッチ文明対話センター)」があり、これは今日の大学で若
者たちが東西文明の交流と相互理解を促進するために設立されたものです。
 リッピエッロ教授が述べたように、私たちは互いに理解し、尊重し合うことがで
きます。共通点もあれば相違点もあります。今日の世界では、相違点を留保しなが
らも共通点を模索し、尊重と寛容を維持することが特に必要とされています。

〈文明間の親和性を重要視すべき 相違ではなく〉
中新社記者:お二人から見て、東西文明の交流における誤解や間違った固定観念の
主な原因は何でしょうか。

孫向晨:私は哲学を学んでおり、哲学的な側面から幾つかの例を挙げたいと思います。
 例えば、西洋哲学の主要概念は「存在」と呼ばれるもので、それは本質的に永遠
であり、時間を超越したものなのです。古代中国の哲学書「周易」は、「変化」を
テーマにしています。それは、世界を不変のものから理解するのではなく、「大化
流行」(宇宙が常にみずからの法則に従って動き、変化していく現象)「生生之謂
易(生生これを易という)」(生命の次から次へと変わっていく様子)という視点
から観察することにより、変化の中で物事の真の意味を把握するのです。
 哲学における一例を見ても、中国と西洋の考え方の違いがわかりますが、その考
え方の違いは同じ物事の理解にも反映されています。

リッピエッロ:中国にもヨーロッパにもそれぞれ悠久の歴史的文明があり、私たち
はそれぞれの古代文明を誇りに思っているという孫向晨教授の考えに共感します。
 両文明には親和性があり、私たちは互いを理解し文化の壁を乗り越えるために、
この親和性をもっと伝え合う必要があります。違いを強調し過ぎるのではなく、文
明間の親和性に目を向けるべきです。
 文化の類似点に目を向け、そして互いを理解することの難しさを克服するのです。
異なる価値観を置き換えるのではなく、分かち合うことに力を注ぐべきです。


中新社記者:古代シルクロードの時代から中国とイタリアは長い交流の歴史を持っ
ています。今、悠久の歴史のある2つの文明が今日の人々の精神的なつながりを促
すにはどのようにすればいいのでしょうか。

孫向晨:リッピエッロ教授は1980年代に中国に留学していましたが、より多くの両
国の学生が互いの国で学び、交流することを願っています。異なる文明的背景を持
つ人々が互いの考え方や価値観を理解することは、単に典籍を読むことで達成され
るものではなく、互いの生活環境に深く入り込んで、現地の人々と親しくなること
で最も深い理解を得ることができるのです。

リッピエッロ:中国の哲学や文化への理解を深めようと中国に留学するイタリア人
学生がふえていることをとても誇りに思っています。また、その国の人々を真に理
解するにはその国に行かなければならないし、現地の人々とともに過ごしことは、
文化や文明を真に理解することになると思います。ですから、特に若い人たちの間
で人間的な交流を深めることが重要なのです。
〔中国新聞網微信(WeChat)公式アカウント2023年6月16日〕
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編集長:李年古/副編集長:前野貴子 特別協力:劉莉生
翻訳:竹内はる菜 澤田裕子 楊桃 村井好子
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