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赴任者の本気度が成功の決め手

李 年古

中国でビジネスを成功させるためのポイントは、現地赴任者の本気の度合いと情熱。これこそが成功と失敗の分かれ目である。

私の日本人の友人は、合弁の日系大手企業の総経理として北京に派遣された。そこは数十名の中国人ホワイトカラーが働くグループ会社の統括会社だった。赴任して数ヶ月が経ち、彼は無駄なコストの削減に取り組もうと考えた。会社の社員は、皆若く優れた才能をもち、仕事はまったく申し分ないが、会社の経費節減をまったく気にしない。OA用品の使い方も、まるでバイキングの食べ放題で支払う値段が同じだからと食べもしないものまで取るマナーの悪い客のようだった。

彼はまずコピー用紙の裏紙の再利用を皆に命じた。しかし誰も従わず、「わが社のような大手で、こんなけちなことをやるのはみっともない」との冷めた雰囲気が漂っていた。ある日、彼は責任者の女性を呼び出して、なぜ皆が反発しているのかを聞いた。すると彼女からは予想だにしなかった答えが返って来た。「皆が私に聞いてきます。わが社の社長は一体北京で家賃がいくらするマンションに住んでいるのか、と」

彼が住んでいたのは北京の外国人向け高級マンションで、家賃は月額1500ドル。これは会社の規定に従って借りたものだった。しかし、社員らは、このマンションに一日泊まるには、一体どれほどの紙を裏表両面使えばその元が取れるのか計算したようである。

彼はショックを受け、迷った結果、彼は今の物件よりほぼ半額の家賃のマンションに移った。中層幹部の会議で、現在のマンションからの転居を宣言、会社のコスト節減への協力を頼んだ。

「トップの改革の決意が社員に伝わったのか、その日の会議で社員らは自らいろいろと提案し始めた。例えば、私用電話の禁止規則の作成やOA用品の申請制度の改正など、皆は私に替わって色々規則作りのため真剣に提案してくれた。これまでに決して見られなかった風景を目にして、私は現地の社員との一体感を初めて味わった気がした」と彼はその日を振り返った。

確かに、中国では昔から「中国人の造反はいつも下から上へ、中国人の改革はいつも上から下へ」というのが定説だ。変化を求めるなら、まず何を変えたいのか、トップ経営者が先頭に立って、ビジョンを明確にする。トップは自ら旗を立てて皆を引っ張っていくことが第一のステップだ。それから(第二のステップ、)何のためにこうして欲しいのか、口酸っぱいほどその意味と背景を説明し、理解を求める。つまり人を動かすためには、まず、やりがいを起こさせることだ。第三のステップは、どのようにやってもらいたいか、まず自分で範を示すこと。自らやって見せて、第四のステップ、つまり実行するプロセスを追ってチェックする段階に入る。最後には、改革の成果のチェックと評価を行い、定着させていくことだ。

この例はいささか極端な例かもしれないが、赴任者が現地の問題を知ったとしても、自らリーダーシップを発揮して、思い切って改革に踏み込まないのは、多くの現地企業の問題点である。

私から見ると、現地の中国人と赴任者の意欲には大きなギャップがあることは明白な事実だ。例えば日系企業では、進出の最初の段階で会社の公用語を「中国語」か「英語」にすると取り決めたケースも少なくない。しかし、数年を経てみると、殆どの企業の公用語は結局「日本語」に落ち着いてくる。なぜかというと、やはり中国人は入社してから一所懸命に日本語を勉強し始め、日本人に合わせてコミュニケーションを行うようになってくるからだ。また、日本人は中国赴任の段階から中国語のできない人が多いばかりか、さらに3~4年間にわたって駐在しても一向に中国語が上達しない人が殆どである。現地の中国人がこれを見て、「日本人上司は本気になっていない」と思っても仕方があるまい。ある現地幹部はこれまでの赴任者のタイプについて皮肉をこめて「うちの会社の日本人は中国語は上達しないが、かわりにゴルフの腕は日進月歩だ」と揶揄している。