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愛社精神育成のポイント

李 年古

多くの中国人は属人主義的な性格を持つ。北方の人々は特に人情に厚い性質がある。彼らに日本人並みの「会社に対する忠誠心」を持たせることは難しいが、上司に対する忠誠心は育ちやすい。彼らにとって会社とはつまり上司で、しかも、男は自分のことを大切してくれる人(上司)のためにたとえ死をも辞さない「士為知己者死」という昔から伝わってきた価値観が身についている人が多いため、良き上司のために献身的な行為をするのも抵抗が少ない。そのため、中国人の愛社精神を育成する最良の方法は、「愛上司精神」を育てることだと私は強調したい。

ある上海周辺に進出した中小企業が成功したマネジメントの例はこうである。同社は電機部品の加工会社で残業はつきもの。残業のある日は、日本人の社長が現場よりもまず社員食堂に足をよく運んだ。食堂に行く前にまず部下を介して、現場の社員に「今日は何を食べたいのか」を聞き出す。そして、自ら食堂の担当者と相談してメニューを決める。夜、疲れきっているときに食堂でわざわざ話しかけてくれる社長に、社員はやる気が沸いてくるという。

ある日、少人数だけが残業となって、食堂は料理を供さなかった。そこで、社長は、各人四つずつの肉まんを買って与えた。熱い肉まんを手にした社員らは、大きな感動を覚えたという。肉まんは安い物だが、言うまでもなく、これは金額の問題ではなく、社長が社員を大切にしているというメッセージそのものだ。やはり情で人心をつかんだ例であろう。

私は中国現地で中国人管理職を対象に色々な社内研修を実施してきたが、現地の人々の不満は、会社よりも上司に集中しがちだ。「日本人上司の下で三年間働いたが、仕事以外での付き合いは一度もない」など不満を漏らす中国人がよくいた。

この間、ある大手企業で赴任者向けの研修を行う際、参加者のある一人が休憩の際、「中国でオートバイを運転するには、免許が要るでしょうか」と密かに尋ねてきた。私は「自分の知る限り、日本の本社側は赴任者に現地での運転を禁止しているはず」と答えると、彼は「現地でドライバー付きの車で通勤する待遇を受けられると聞いたが、やはり中国人と同じような通勤手段を選びたいし、地元の色々な所を勝手に回ってみたいなあ」と言う。

この赴任者は会社からみると逸脱者になるかも知れないが、きっと現地にうまく溶け込める日本人だと私は思った。現地社員の目からみると、リーダーの理想像と言えば、まず何よりも現地の人と同じ目線でものを見る、同じ生活をする人である。それで、喜びも悩みも分かち合えるし、感情を共有できると思われる。この視点から言えば、彼は理想的な上司になれると確信した。

中国で経営を成功させるには、やはりリーダーの存在感が非常に重要だ。特にトップダウンの体制に馴染んでいる中国人にとっては経営者がすべてだ。リーダーが合格か失格か、あるいは彼らを考課する最も重要な指標は、現地の中層幹部を育てているかどうか。(、)この一点だ。部下を生かすも殺すも上司次第だ。その意味で、私は中国で成功するために、日本人管理者はまず中国人の部下を鏡として、そこに写った自己像をよく見つめることが大切だと提言したい。