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第1回 「向銭観」

李 年古

日本人が一番分からないのは中国人の金銭感覚だ。

これに対する日中双方の見解の差は大きい。「中国人はケチだ。あんなに金にこだわっている人種は他にいない」と日本人。「日本人のようにケチな人間は他にいない」と中国人。双方は相手こそ可笑しいと一蹴する。しかも共に実例を挙げている。日本人は「自由市場でたった一円のために1時間かけて喧嘩するのも見た」とため息をもらす。中国人は「友達と食事をするとき、日本人は必ず割り勘だ」と日本人のケチぶりを吐く。どちらにも相手を攻撃する十分な理由がある。

だから、この二国民の金銭観がそれぞれの文化的な背景に起因していることは、間違いないと言えるだろう。中国人が1時間もかけて交渉しているのは、金に対するこだわりよりも、交渉そのものを楽しんでいるからかもしれない。日本人の割り勘も一次的な人間関係が頻繁になったために現れた人間交際のスタイルで、必ずしもケチとは言い切れない。

「向銭観」~中国におけるお金の意義

「金銭不是万能的、没有金銭是万万不能的」(金は万能ではないが、金銭がないと絶対だめだ)。これが、今の中国で金銭についてもっともポピュラーな考え方だ。

経済開放に伴って著しい変化を遂げた中国で、もし昔と今とで天と地ほどの差が生じたのはどんなものかと聞かれたら、間違いなく「金銭観」という答えが返ってくる。拝金主義に走っている中国でもっとも変わったのは、国民の金銭観だと言ってよいだろう。今の時代で生きていくには、「何もなくても構わないが、金銭だけはなくてはならない。何があっても構わないが、病気だけはあってはならない」と人に会うたびこんな言い方がされる。

旧正月のお祝いの言葉も、対象を問わずに「恭喜発財」と一色に染められている。ある老人ホームに住んでいる高齢の患者たちは、訪問者からこのように挨拶されると、笑ったらよいのか泣いたらよいのか分からない気持ちになるという。「今の世の中では、誰もが相談もなく強引に金儲けさせようとするんだよ」とため息を吐く。

その通りだ。20年前まで社会でもっとも定着していたスローガンの一つに「向前看」があり、今も同じ発音でよく使われているが、中身はまったく違って「向“銭”看」となったし、出世観もいつからか、「前程無量」から「“銭”程無量」に替わった。

中国人の金銭観