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第1回 伝統的な商人のイメージ

李 年古

中国は、世界中で商業が最も早く繁栄した国の一つである。商業の黄金時代は紀元前220年頃の戦国時代だと言われており、エジプトに次いで早い。

しかし、二千年以上続いた封建主義の歴史を振り返ってみると、漢と唐の時代のそれぞれ前半を除いて、中国では商売人、ひいて言えば商業そのものが厳しく制限・抑制されてきた。各時代の王朝は「重農抑商」(農業を重視し、商業を抑制する)という政策を取ってきた。商人の社会地位は、「士、農、工、商」と呼ばれた通り、最下位に止まってきた。

「重農抑商」は中国の歴代王朝の不動な国策であり、中国の伝統的な価値観では、社会的な地位は財産ではなく、権力の強さによって決められていた。こうした社会で商売を行う商売人は、たとえいくら家財があったとしても、社会的な地位が貧乏な農民より低かったために、常に劣等感を抱いていた。しかも、権力を手に入れる道も絶たれたので、商売しても、出世するチャンスを失ってしまった。

こうした社会的な環境に置かれた商人は、商人の社会的なイメージというものを形成し、独特な商売意識や商売慣習を持つようになった。ここで、いくつかの特徴を説明してみる。

「商人」=「ずるい者」という社会的イメージ

中国の各時代において商人の地位は最低の職業に分類されているから、彼らの社会的なイメージも当然悪い。

このイメージを定着させている熟語と言えば、「無商不奸」(商人ほどずるい者はいない)だ。中国人にとっての「商人」はイコール「奸商」であり、警戒すべき対象となる。または、これから商売を始める人もこの伝統的な価値観に基づき、金儲けしたければまず心を黒くする覚悟をすべきだと考える場合もある。

中国では、商売人に対する不信感が根強く、いまだに揺るぎない。例えば、純朴な農民出身の者でもいざ商売人になれば、その商売には不信感を抱かずにはいられない。80年代、農民が都市の自由市場で野菜などを売っている際、一部の悪質者は秤の中に水銀を入れて、量を少なく偽ることをよく行った。そのため、多くの消費者らは自己防衛のために、自由市場に行く際、携帯用の秤を持参することを余儀なくされた。

興味深いのは、こうした悪徳商法に対する社会の一般的な良識が、それを厳しく追及するよりも、騙されないよう消費者に注意を喚起することに重点を置いたことだ。中国の新聞などは今でも、悪徳商法に騙されないためのコツを毎日のように紹介している。まるで、「騙す商人を改心させることは無理だ、むしろ騙される方が問題にある」というような世論が形成されているように見える。

一方、「奸商」のイメージが業界に定着しているため、多くの商売人は取引相手に対してまず不信感をもって接されることが多い。これでは、商売を始める前から、お互いの不信感を無くすために余計なエネルギーがかかってしまい、その信頼感を確立するためのコストが他国より高く付いてくる。

中国人の商売観