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第4回 「中国人と付き合って、人間不信に陥った」

李 年古

現地の中国人からこのような不満の声を耳にすることはめったにないが、逆に、日本人赴任者から中国人に対する不満、不信の声を聞くチャンスは耳にタコができるほどある。私の企業内研修では、参加者の中で対中ビジネスを経験している者が実に多い。中国人に対する見方も様々で、時にはかなり刺激的な発言も飛び込んでくる。そんな意見を一言でまとめるとすれば、やはり「中国人は信頼できない」との一点に尽きる。

「中国人と付き合ってから私が一番怖くなったのは、自分が人間不信に陥ったことだ。自分で自分のことを情けないと思い始めた」。「なぜですか」と尋ねると、返事が迷わずに返ってきた。「裏切れられたから。しかも何度も同じのことで」

ある日本人がこう答えた。「わが社は、仕入れ部門の責任者を三度クビにした。三度クビを切った原因はまったく同じ。つまり、仕入れ先と手を組んで賄賂をもらって会社に損害をもたらした。仕方がなく、私は切り札を切った。王さんという人を販売課長に任命した。彼こそ信頼できる人だと私は思った。というのも、彼は私の面接で入社させた人物で、元の会社から賠償金を求められて、私の許可で彼に代わって支払ったという経緯もあった。学歴も高校卒であるにもかかわらず、彼を課長に昇進させたのも私だった。この人なら信頼できると思って彼に任せた。しかし、一年経たないうちに同社の社員が密告してきた。あるプリンタ原材料を購入する際、彼と人脈がある会社の材料を独断で仕入れて、会社に莫大な損害をもたらしたというのだ。手口はクビされた人とまったく同じだった。そのショックを受けて、私は二年間禁煙していたタバコに火を付けた。これから中国人を一切信用しないと誓った。信頼できない人ばかりだとはとても思わないが、信頼して裏切られることに耐えなれない」

この、非常にショッキングな実話にも文化的な背景がからんでいることを補足しておきたい。中国人に悪い奴が一杯いることには、まったく反論するつもりはない。ただし、この件について、研修後に交わした彼との会話の結果が興味深かったので、記しておきたい。  

王さんと言う人間は、表沙汰になってから辞職した。最後に別れるとき彼は一言こう言ったという。「会社には悪かったが、あなたを裏切るつもりは決してなかった」と。
事後、彼に近い同僚から聞いた話によると、粗末な部品の仕入れ会社は、彼が元々勤めていた会社の上司の妹さんが作った会社だった。元の上司に借りがあった彼は、上司から頼まれて断わりにくかったという。

これが事実だとしたら、いくつか日本人にとって理解しにくい彼の心理について説明したい。つまり、彼の「決してあなたを裏切る行為ではなかった」との言葉は、実に誠実だということだ。日本人にとって信じがたいかもしれないが、中国人のメンタリティが分かれば、納得できる。

中国人は会社と個人を分けて考えている。お互いに築いた「信頼」関係は、個人的な関係であり、会社との関係ではない。前述の王さんの行為は、会社には背信行為だが、日本人の部長のポケットから金を盗んだわけではないから背信には当たらないと彼は思ったに違いない。いわゆる裏切り行為というのは、例えば家に親切に招待されて、帰るときに台所から銀製の皿を盗むような行為を指す。

しかし、会社に対する忠誠心がないからと言って部長に対する背信行為だと結びつけることは、中国人の想像力を超えている。会社は私のものでもなければあなたのものでもない。会社に対する背信イコール部長への背信、といった発想は、やはり属会社の日本人的な発想で、属個人の中国人にはその価値観はない。

中国人の対日観