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第2回 お土産送りのコツ

岡田 章一

北京のある官庁を訪れた時のことである。若い男の総務担当官が門のところまで出迎えてくれた。途中で彼の仕事場の側を通ったが、ふと思い出したように、「あヽ、ついでにこれも見ていって下さい」と笑いながら、隅の机の引き出しを開けてみせた。中には大量のボールペンが入っている。私が驚いて見ていると、彼が続けた。「これらはみな日本からのお土産もの。毎回毎回届けてくれる会社があるんだ」。

彼の話によると、その企業(A社)とのお付き合いの始まりは約十年前に逆上る。その頃はまだ中国に良いボールペンがなく、日本製が大いに持て囃された時であり、日本からのお土産にみな喜んだものだ。しかしもうこれは昔のこと。最近は中国でも良い物が作られており貴重品ではない。それでも日本A企業からのお土産は止まらない。文字通り十年一日の如くボールペンである。ちなみにA社は文房具のメーカーではない。想像するに、十年前に歓迎されたイメージを変えられずに、昔の手続きが今でも流されているのだろう。結果として、中国のこの役所ではあちこちで余ったA社名入りのボールペンが総務に集まってきて、この机の中のような事態に陥ったものと思われる。

日本と中国とでは、お土産の意味する重さが違うような気がする。どうも日本ではお土産というものがたぶんに形式化しているところがあり、要するに気持ちが入っていないのだ。用意する方はどんなに準備が大変だとしても、受け取るのは個々の人間である。ここのところを忘れてはいけない。お土産は基本的に好意が形になったものであり、それに込められた好意の気持ちが伝わらなければ意味がない。中国に持っていく場合には、とかく配付する先も多く、いろいろな品物を沢山揃える場合は選考が雑になりがちだ。要するに面倒なのである。だからといって、相手がそう望まない限り、いつも同じ品物を届けるというのは芸のない話である。A企業とこの役所との関係も先が見えているような気がする。

ただし、中国の官僚を相手にする場合にはちょっと注意すべき点がある。それはあまりに高価な贈り物を持って行くと、相手にとって迷惑がかかる場合があるということだ。つまり賄賂臭が漂ってはまずいということである。私の経験では、やや高価な贈り物を受け取った時、相手の主人公は、自分ではその場から持ち去らず、面会が終了した後、総務の担当者が引き取っていた。これらも後に中央政府の然るべき部署に回収されていくと聞く。このように適当なお土産を見つけるのは結構難しいことなのだ。中国では、人間の気持ちが関係する部分では決して気を抜いてはいけない。たかがオミヤゲ、されどオミヤゲなのである。

中国人幹部との付き合い方