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第4回 将来の幹部を掘り当てる

岡田 章一

中国の官庁とお付き合いをしていく上で、よくお世話になるのが、日本側との仲介役をする人たちである。それにはだいたい日本語の話せる通訳官が当たることが多い。日本人の中には「たかが通訳」と小馬鹿にしたようなことを言う人もいるが、それは軽率だ。確かに彼らの仕事は、他人の言うことを機械的に翻訳することで、どちらかといえばマイナーなスタッフの感がある。中国でも実際に通訳官から上位職に登った人物はそう多くはない。だが通訳の言葉は、彼らの感触と共に、双方の意見交換の上で大切な幹になるものだから、それを司る人物の扱いを軽んじてはいけない。

公式な会議では、日本側は日本から用意してきた通訳、相手側は中国で用意した通訳を通して会談に臨むことになる。平等の立場から形式として大切なのだ。私の経験では失礼ながら、だいたい日本側の通訳者の技能の方が上のことが多かったと思う。ある重要な会議の場で中国側の通訳が役に立たず話が進まなくなった時があった。日本側の要人はいらいらして通訳を変えてほしいと言おうかとの意見も出た。がこのような場合には、日本側のより有能な通訳を使えば済むことだ。重要なのはこの場合、あくまで相手の通訳の面子を壊さないこと。「この話は特殊なテクニカルタームが入るので、通訳はこちらでやりましょう」といった気遣いが必要だ。実際にこのようにして感謝されたことも何度かある。 重要な会議というのは、時に会談自体が意見の相違から中断状態に陥ることもよくある。そんな時にこそ彼らの活躍の場がやって来る。双方の間に入り貴重な調整役をしてくれるのだ。通訳という言語変換だけの仕事でなく、潤滑油としての仲介の役もするのである。この辺りがいかにも中国的だとは思うが、こういう人々こそ大切にしておくべきだ。

中国の官庁では、関係する日本人の人物評価などをこの通訳官たちに聞く事が多い。彼らの意見は上層の高官までが参考にするから、通訳官の感触は馬鹿にできないのだ。時々は通訳の人たちと一緒に飲みに行ったり、食事を共にすべし。考えてみれば、中国で本場の中国人と日本語で食事が出来る機会というのもそうはないだろう。彼らはふだんから会食が多いのでどうかとの意見もあるが、そこでは彼らは言葉を仲介するのに大童なわけで、珍味を味わっている余裕などあるはずもない。時にはこちらからその労に報いて上げるべきである。このように中国では、どんな職務にいても、じっとこちらの人物観察は続けられているから、老若男女、左右上下、何れの人々の目も油断はできないのだ。

中国人幹部との付き合い方