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第11回 「通訳を過信してはいけない」

岡田 章一

これまでに、中国人との会談では会話の流れに重きが置かれがちであると申し上げた。それに伴い、通訳者の「意訳」や「離れ業」等の入る可能性が大きいこともお話しした。こうしたやりとりの中には、一つの大きな落とし穴があることに、すでに読者諸氏はお気づきになっていることと思う。それは、通訳者の裁量の占める範囲がいかにも大きすぎるということである。我々日本人ビジネスマンは、長年かかって、ようやく英語についてはある程度自分でチェックできる所までになったが、中国語の前にはまだ殆どの人が無力だと言わざるを得ない。残念ながらこの状況はまだしばらく続きそうだ。こうした条件下で行われる中国人との会談では、とかく会話の流れにまかせたまま、「適当に」通訳されてしまう可能性が大ということなのだ。またそう思っていた方がよいということでもある。同じ国際的な会議だからといって、私たちは従来の英語通訳に慣れた感覚でいると危いとの認識を持たなければいけない。発言する方も、いくら自分が正しいことを熱心に語ったとしても、それが正確に相手に伝わっている保証は無いし、その判断も出来ないからだ。優れたビジネスマンは、その辺の危険性をよく心得ており、落ち度の無いように備えている。会話の中身は常に(笑いながらでも)冷静に整理し、そして肝心な部分にかかるとしつこく念押しを忘れない。このように中国人との会談には、夏目漱石ではないが、「智に働けば角がたつ、情に竿させば流される」という進め方の微妙な呼吸と、相手の感触に逆らってでも言い分を通す、「意地を通せば窮屈」という硬い部分も存在するわけだ。

日本を代表する商社の伊藤忠は長年かけて中国に確たる根を張り、中国ビジネスに成功している。同社の丹羽社長が文芸春秋(5月号) で、「中国で成功する10の条件」の一つととして、「通訳を過信してはいけない」ことを取り上げているのは注目に値する。「日本人には中国語を話せる人が殆どいない。通訳を全面的に頼ることになり、そこにリスクが生ずる」と指摘される。丹羽社長は、その対策の一つとして、重要な商談には通訳とは別に中国語が分かる者を帯同する。そして予め相手に「彼は中国語が分かるんですよ」と言っておいて、通訳者に緊張感を与えておくとよい、とのアドバイスをされている。通訳者を牽制しておくことは、現場において実に心理的に長けた方法である。これは中国人とのやりとりの内容を常にチェックしている姿勢があるからこその「勘どころ」でもあろう。こうした実務経験から生まれてくるノウハウこそ、その発想の根源はどこにあるのかという、中国ビジネスで我々が学ぶべき要点を示しているのではないだろうか。

中国人との会議