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第12回 「時には通訳の能力をチェック」

岡田 章一

「中国人の通訳の問題といえば、こんなことがあった」と、ある時H先輩が話してくれた。「その頃の海外ビジネスといえば、一に米国、二に欧州という時代で、アジア圏はまだマイナーだった。とくに中国は共産圏という難しい事情もあり、しかし仕事の話はぼちぼち出だしていた頃だ」。その頃の日本人の間では、中国は「中国人は信用できない」の一言で片づけられていた時代でもある。「中国政府から通信機器の引き合いがあって、商談の相手は当時の電子工業部のA司長(局長)だった。いろいろと話を進めていく中で、我々はこの人物との会談がどうもうまくいかないことに気づいた。話は順調に流れているようには見えるが、いつも肝心な焦点が定まらない。宴会等では良い雰囲気なのにね」。やがてA司長はとかく言を弄する人物だとの悪評までが日本側に流れる。「多くの日本人がそれを、中国人は信用できないからだと簡単に言うので、私は本当にそうかな?と疑問を持った」。確かにA司長との会談はもやもやしていたが、彼の部下たちとの話しはうまく運ばれており、現実としてA氏の決裁のもと商談も取れていたからだ。何か誤解があるに違いない。丁度そういう時に、中国事情に通じた商社の人から「通訳に問題があるのではないか」と言われた。そこでH氏は初めてA司長の通訳Bのことに思い当たった。BはいわばA司長のお抱えの日本語通訳。どちらかといえば宴会やパーティの席でにぎやかに会話を盛り上げていく進行係の才がある男だ。よく思い出してみると、A局長との話が感じ良く行く割にビジネス事項が纏まらないのは、Bの日本語の通訳能力に限界があるためらしいと分かってきた。これまで、空気のような通訳の存在には注意を払っていなかったのだ。それ以降、重要な用件がある時には、日本から優秀な通訳者を連れていき、微妙な部分の通訳を補足させるようにした。そこでようやくこみ入った話もA司長と詰めることができるようになり、一方B通訳には彼の得意の会食の場で活躍してもらうようにした。「我々にとって良かったのは、そのB通訳の欠陥を発見したことではない」とH先輩は言い切る。「大切なのは、その頃我々の間に蔓延していた中国人不信という先入観を越えて、何が問題なのだろうかと冷静に考えたことだ。その結果、まず問題の一は解明できた訳だが、もっと大きなことも見つかった。それは日本人の方にも問題があるということ。我々の話しの方にもおかしな点はないかと考えて、相手側つまり中国政府の関係者等に聞いたりもしたのだ。このような努力の甲斐あって、こちら側の反省すべき点も明らかになってきた。これはその後得難い大きなノウハウになったよ」。

中国人との会議