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第2回 長い長い「ご挨拶」

岡田 章一

日本の一般企業マンが、日本でやっている実務的な感覚で中国人との会議に臨むと、なかなかその流儀になじめないことがある。例えば冒頭によく入る、中国側要人(例えば地方政府の高官など)の長い長い「ご挨拶」などはその良い例であろう。これを通訳を通してやると、時間も二倍はかかるし、大概の日本人にはいささか無駄でうんざりしたものに感じられるに違いない。だが前回の当欄でも申し上げたように、中国には中国のスタイルがある以上、これはこれで割り切らねばならない。どんなに形通りのご挨拶であろうと、先ずはありがたく拝聴するのが相手に対する礼儀である。ここで、この長い挨拶の類いを、単にうんざりする話だと思ってしまうのと、何かに役立たないかと考えるのとでは大きな差が生じてくる。中国人との会議ではこうした気のきかせ方が大切だと思う。その一つの方法として、要人の挨拶の中に出た文言を、自分の発言の時にしばしば引用してみることをお勧めしよう。これは「(貴殿の話を)よく聞いていましたし、理解できました」を示す何よりの証拠になる。このような機敏な対応ぶりを相手が喜ばないはずがない。これは会議の時に限らず、宴会や会見の時などにも役立つし、そのために自分の方も、相手の話を興味を持って聞くから退屈もしない。まさに一石二鳥なのである。

以上は日本人が中国流に戸惑う話しだが、その逆に、つい日本流が顔を出して失敗することもある。実務に有能な日本人が会議に臨んでいると、内容に熱中するあまり、つい日本での会議と勘違いをしてしまうことからよく起こる。中でもよくありそうなケースが、中国側から提出される資料に関してである。私の経験では、一般に中国側で用意される資料にはけっこう間違いが多い。例えば簡単な表の縦横合計の数字が合っていない、表の中の欄がずれて数字が入っている…等々だが、とかく日本人はこのような誤りを見つけるのが得意だ。だが、このような場面でも、やはりちょっとした気のきかせ方が必要なのである。日本の会議と間違ってはいけないのは、こういう時である。要するに、大勢の人々の前に間違いが明らかにされる時には、決してそれを担当した個人が傷つかないようにすること。とくに個人の名前が出ないように配慮することだ。あくまで相手側を全体で包んで、だが訂正はきちんとすべきなのである。つい氏名を出して相手の面子を傷つける失敗は、日本人がよくやってしまうことの一つなので、よく肝に銘じておくとよいと思う。

会議はただ事務的にてきぱきと整理していくだけではなく、出席者の間の人間的な交流をはかる大切な部分がある。ことに中国では、それが会議に出ている当事者どうしの協力感を高める上で大切な要素であることを、常に頭に置いておくべきであろう。

中国人との会議