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第3回 裏の交渉が大切

岡田 章一

ある日、北京の某官庁で行われた日中会議の席で、日本側代表の私たちが驚くことがあった。それは、日ごろ仲良くしている女性のAさん(処長=課長)が、その日は態度が変わって、日本側のそれまでの対応を非難してきたのである。その発言ぶりは強く、途中で上司のB司長(局長)が中に入って、取りなしたくらいであった。そのお蔭もあって、会議はその後特に問題もなく無事に終わったが、日本側は何かしっくりこなかった。A処長が述べた問題は、日本側にも非があることではあった。が、何もこのような偉い方々が列席する会議で言わなくともよいものを、というのである。もっとも会議の後では、A処長はすぐに以前のAさんになり、私たちはもと通りの仲好しに戻っていた。ただ日本から来た出張者の中には、Aさんは意外に変な人だという声も出たり、彼女は要人の前で点数稼ぎをしたかっただろうと言う人もいて、総じて日本側の印象はあまり良くなかった。

私自身はこの出来事に不思議なものを感じ、いろいろと調べて分かったことがあった。じつはその官庁では、あの我々との会議を前にして、会議の場での役割分担を決めていたというのである。つまり、A処長は日本側に対して強い態度で臨む役を、そして上司のB司長はそれをなだめる役をする。ちょうど警察などで二名の刑事を硬と軟の組み合わせにして、取り調べを進めるという、あの方法である。Aさんが強く出たところで、B氏が相手側を擁護する態度を見せながら、自分たちに有利な方向に導いていく。このようにすれば、戦果はあるし、B司長も相手に好印象を残せて、体面も保てるというわけだ。

よくこのようなケースで、「中国では裏の交渉が大切」とばかりに、強い態度に出たA処長と裏交渉を進めようとする日本人がいる。しかしこれは誤りで、本来はそれをさせた「震源地」は誰か? をよく考え、キーマンのB司長と交渉の本線を保つべきなのである。 私には、会議の場でも発揮される、こうした中国人的な駆け引き、交渉に濃淡をつけるという、人間心理を読んだ工夫が面白く感じられた。それに比べると、一般に日本の会議はとかく事務的に取り運ばれて平坦であり、面白さに欠けることが多い。 このように中国人との会議の場で、何か不自然だなと感じたら、ゆさぶりをかけてきたと思うべし。そうすれば、相手側が何を問題にしているかのポイントが見えてくるし、また、中国人との駆け引きの妙味も「楽しめる」ことになると思うのだ。

中国人との会議