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第6回 相手の虚を突くのは中国流忍法

岡田 章一

中国ではどんな会議でも、終了した時に「あーやっと終わった」と思ってはならない。これが極端に聞こえるのなら、(不満ながら)その位の覚悟でいた方がよいと言い直しておこう。現地で体験したいろいろなケースを通してみると、実際には「終わっていない」方が多いからである。中国では、会議場で全てけりがつくとは限らない。朝からの会議とそれに続く夜の会食が無事に終わり、友好的な雰囲気も盛り上がって、ほっとしたい気持ちも分かるが、そこで油断をしてはいけない。とくに日本側の代表者の立場にある者は、このことをよく肝に銘じておくべきだろう。とくにホテルに戻って一息入れている時などは要注意である。自室でシャワーを浴びようとした途端に、突然電話が鳴る。取ってみると、中国側の通訳からの電話で、いま局長と下で待っているから、ちょっと話がしたい。これである。相手の虚を突くのは中国流忍法の十八番なのだと心得るべし。いかなる理由を述べようとも、夜遅く自分が泊まっているホテルでは、その会見を断れる理由などあろうはずがない。紹興酒の後味などは吹っ飛んでしまう。このような例はまぁよく耳にする方なのだが、私が実際に体験した中には、これが空港まで続いたこともある。その時は日本へ帰国する直前に相手がやって来て、空港のロビーで念書の修正をしたのだった。

中国人の感覚では、会議は何も会議室だけでやるものではない。彼らは一生が「談判」の世界だから、いつでもどこでも活用してくる。そこで、日本側がこれを逆に利用したケースもある。東京でのある重要な交渉で、会議と宴会の終わった後、中国側の代表者の泊まるホテルで真夜中に彼を呼び出し、日本側のノー回答を伝えた。その要人も、日本人がこうまでするのは余程のことと好意的に理解してくれた。お蔭でそのプロジェクトは最難関を通過して、その後は前進したのである。深夜に我々の奇襲を受け入れた方も、そんなことには慣れているという感じだった。やはり中国伝統の忍法だったのかも知れない。

だから、日本側のプロジェクト責任者は、中国に居たら何が起こってもおかしくないくらいに構え、常に各段階ごとの対策を頭と心に備えておくこと。このような時、日本側リーダーが形だけの名誉団長のような場合は悲劇である。寝ようとした時に直撃弾を食らって、担当者がいなくては何もできず、その無能ぶりをさらけ出してしまうことが多い。膝詰め談判の緊急時に、「日本の本社と相談しなければ…」の連発では、ただ馬鹿にされるだけだ。そんな程度のリーダーなら、始めから中国との仕事は諦めた方がよい。

中国人との会議