李 年古
社員の業績考課が終了し、目標未達成の社員にC評価をつけたところ、いざ面談の段階になって「今年は景気が悪かったんです。中国政府だって成長率を結局下方修正したじゃないですか。うんぬんかんぬん・・・・」と自分の業績不良を素直に認めず、さまざまな理由づけをし面談がうまくいかなかった日本人上司は多いと思います。
「ねえ、君かれのことどう思う?」「そうですね。ちょっと・・・」「だろ?やっぱり・・」このような会話が中国人社員にも通じるとお思いの方はいらっしゃらないと思いますが、自分の意図する結果がかえってこず落胆し、フラストレーションのたまっている方は少なくないでしょう。
「上司の意図することを察する」という習慣は単一民族である日本人特有の文化であり、同じアジア民族と言えども、ここ中国ではコミュニケーションにもくふうと努力が必要です。そして「愛社精神」というより「愛上司精神」の強い中国人の心をつかむためには、中国人社員との良好なコミュニケーションは不可欠です。異文化コミュニケーションテクニックを知っていることが、会社運営の成功の鍵をにぎっていると言っても過言はないでしょう。
効果的なコミュニケーションをはかるためのポイントは、
ここで日中コミュニケーションスタイルの違いを見てみましょう。
中国 | 日本 |
---|---|
・自己主張型 | ・相手同調型 |
・説得型 | ・聞き手型 |
・意見明確型 | ・意見曖昧型 |
・問題解決型 | ・問題回避型 |
・零距離接近型 | ・「間」を置く型 |
このように日本人と中国人では、まったく異なります。
これらの違いを克服し、中国人社員と真の信頼関係を構築するためには、頻繁なコミュニケーションが不可欠であり、またその際「アサーティブネス」交流技法の運用が効果的です。
「アサーティブネス」とは、必要なときに、自分の主張や気持ちを相手の感情を害することなく、納得してもらえるコミュニケーションの方法です。そのステップとポイントは次のようになります。
ステップ1.
「話を切り出す」ポイント:目的、背景、理由を話す。これから起きて欲しいことを伝える。
ステップ2.
「相手の反論に対処する」
ポイント:
ステップ3.
合意を確認する。
アサーティブネス交流技法を使い、冒頭の面談を進めてみましょう。
「王さん、今日は今期の業績評価の効果面談をしますが、これは王さんの奨励給カットが目的ではありません。王さんには今後さらに活躍してもらいたいという期待が私にあるから話し合いたいのです。ところで目標未達成の理由は何ですか?」
「実は・・・・」長々と説明が続くと思いますが、言い訳であってもまずは「傾聴」することが必要です。そして「そうですか、王さんの気持ちは理解できます。悔しいでしょうね」と相手に理解を示します。しかしこれはけして相手の言い分に賛成するということではありません。理解とは相手への尊重であり、人は理解されると相手の感情も受け入れやすいものだからです。
次に上司であるあなたは自分の意見を明確に伝えます。この時のポイントは「私」を主語にし、「私」の視点で発言し、発言の所在を明確にすることです。
日本人は往々にして、相手に遠慮しはっきり言わなかったり、逆に言い過ぎて強引になることがあります。しかし、ここ中国では相手に自分の伝えたいことを明確に率直に伝えることが必要です。
異文化と接するとき日本人によく見られる問題点としては、理解する前の好きか嫌いかの「拒否反応」。相手との違いに、どうやったら合わせられるかという「不安心理」。相手に完全に同調するか、或いは完全拒否するか、「二者択一的な対処」などがあります。中国人部下の不可解な言動に遭遇したときに「なぜ彼らはこうなんだ!?日本だとこれが常識なのになぜだ!?なぜだ!?」と混乱するのではなく、一度冷静に「アサーティブネス」技法を使い、じっくり中国人社員とコミュニケーションをはかってみることをおすすめします。相手への理解、尊重は真の信頼関係を築くための基本です。
※UFJ綜研(上海)主催の「人材戦略セミナー」、李年古氏による「成功する社内コミュニケーション」より抜粋