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中国人から見た日本人の交渉スタイル

李 年古

情報収集と分析の優れた能力

日本人の情報収集と分析能力がきわめてすぐれている、このような定評が中国にはある。

【事例1】

「日本石油化工設備公司」は、1960年代に大慶油田の設計入札に参加した。なみいる米、独、英系の有力な企業との競争に勝ち、無事に落札することができた。成功した要因の一つとして、情報員のすぐれた情報収集とその分析が功を奏したとされた。まだ中国の石油開発事業が秘密にされている当時のこと、ある日、同社の情報員が、中国の写真誌から油田開発の「労働模範」員である王慶喜氏の写真を見つけてきた。そのなかで同氏が着ているコートと背景の大雪の風景とをみて、油田は東北地区にあるらしいとの推定をした。それを手がかりにしてさらに探っていくと、「人民日報」の記事が手に入った。馬家窯という場所で、彼が「大きな油田だなあ」と感無量に語ったというのだ。その内容から、そこが大慶油田の中心地に違いないと断定した。1964年に同氏が全国人民代表に選出された。この意味は一つしかない。「油田の石油を掘り出している」ということだ。さらに彼の写真が新聞に掲載され、それを見た同社の日本人は、その写真のなかで王慶喜氏が立つボーリング・タワーと油井とを分析し、油田の直径を算出した。また、国務院の工作報告を読んで石油の生産量を計算した。最後にこれらの資料と情報に基づいて油田の設計を開始した。翌年、中国政府が世界各国の企業に油田の設計を求めた時、同社の提出した設計案が直ぐに受け入れられたのも当然のことである。

保守的で情報をオープンにしない

中国人経営者が日系企業とのビジネス交渉を語るときには、技術の移転に関する交渉が最も難しい、と口をそろえる。とくに日系企業は、欧米系の企業に比べて技術移転には消極的で姿勢がかたく、おくれをとることが多い、としばしば指摘される。その理由としては、日本にとって隣の中国はいつの日かに日本に追いつき、大きなライバルになる可能性が大きく、非常に用心深い対応にならざるをえない、と分析している人もいる。また別な意見では、日系企業の対中投資分野の領域が狭いことがあげられている。つまり日系企業の対中投資は、主として繊維、一般加工業および家電類の組み立て業に集中している。投資分野が労働集約型、または伝統的な産業に集中している。

しかし、外資系企業の対中投資の重点は、基幹産業への投資に移りつつある。その代表例として、三峡ダム、北京~上海間の新幹線建設プロジェクトがある。しかし、こうした基幹産業への投資には、ほとんどといってよいほど技術提供を伴うケースが多い。技術移転では、日系企業は欧米系企業に遅れをとりがちである。このような状態が続くと、中国での大きなビジネスチャンスはどんどん逃げていってしまう。こうした問題に関連して、日系の企業にあった好例をご紹介する。

【事例2】

1985年、広州汽車廠とフランスプジョーとの合弁企業として、「広州プジョー汽車公司」が設立された。生産車数は累計10万台に近く、税引き前の利益は40億元に達したこともある。しかし、1993年以降は経営が傾いて債務超過に陥り、負債総額は約30億元近くに達することになってしまった。この事態を打開すべく、中国側は世界で有名な上位10位までの自動車メーカーと交渉を開始し、最終的にホンダが浮上した。結局、この合弁はホンダの出資が16億8790万元、持ち株比率50%(以前のプジョーは22%)で落ち着くことになった。この交渉の過程で、中国側が最後にホンダをパートナーとして選んだ決め手の一つが、ホンダからの技術的な協力姿勢だったという。話によると、双方は交渉の際に次のことを合意していた。合弁会社を設立した以後の3年間、ホンダは広州自動車プロジェクトにたいして、技術指導と人材養成の協力を無償で提供し、また3万台規模の工程上の改良に関連する技術・ノウハウも提供する。また、広州プジョーから支払われる技術譲渡の費用4800万ドルに基づき、1998年型と2003年型の最新型車を提供する。またこの二つの車型に関連する改良技術も提供する。さらにホンダは技術譲渡に対して手数料をとらないことに同意し、合弁会社の生産台数が累計3万台に達してから、リベート方式により費用を受け取ることに合意した。

ビジネスオンリーで人間性を欠く

日本人がいわゆる「エコノミック・アニマル」と呼ばれはじめてからもうかなり経つが、中国でも日本人を「経済動物」と揶揄することがしばしばある。日本人というのは、経済で頭を占領された、人情や趣味にはあまり関心のない、利益を追い求めて世界中を飛び回っている人間だ、といったところである。中国ではいくらビジネス上のことで急な要件であっても、人間同士の感情的な交流を踏むことが不可欠なステップである。何かを話し合う前に、まずはお互いに十分な触れ合いの時間をもつことが一般の常識なのである。

頭が固く柔軟な発想に欠ける

融通無碍な考え方をする中国人の目からみると、日本人には柔軟性がかけているようだ。中国でビジネスをうまくとり運ぶためには、かなり柔らかな考え方が必要となってくる。しかしこれは、社会ルールや法律、ビジネス慣習などを固く守ることに慣れてきた日本人にとっては、至難な業なのに違いない。中国人の目に映る「日本人の固さ」というのは、こうした背景から生ずる日本人のビジネスに対する慎重さに起因するものがじつに多いのである。

「中国人との交渉術」より抜粋