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行き詰まりの場合での駆け引き術

李 年古

「口説得」

他人とコミュニケーションを行う場合、中国人と日本人といちばん違うのは相手の話を理解する方に重点を置くのではなく、むしろその逆で、つねに相手を説き伏せ自分に同調させることに懸命に力を注ぐのである。また、他人との利害をめぐる衝突が起きた場合は、なるべく譲歩か、穏やかにそれを回避しようとする日本人と違って、中国人は、むしろ真正面からぶつかって、論争することこそが、トラブルを解決する最良の方法だと思っている。そうした説得を行う際に一つの特徴があり、それは、相手を同調させるためには、必ず何らかのしっかりとした「理屈付け」がなされていなければならない、という暗黙のルールがあることである。

【事例】

中国人との宴会に出席された方ならば、しばしばこうした風景を目にしたことがあるに違いない。それは、双方の主賓が相手方に酒を勧める際には、必ずといってよいほど、その一杯を飲むのになんらかの理屈をひねり出してくることである。たとえば、「お互いの情を深めるために、この盃の一杯を飲み干すべきである」とか「我々の合作がこれから順調に進むように」とか、「ふだんは酒を一滴も口にしないこの私が、あえて乾杯をお願いします」とか、次々に相手が断りにくい理屈をあげてくる。乾杯を迫られた方も、いちおうこれらの理由が正当なものかどうかを判断してみるが、まずは受けることになる。いくら断りたくても、理屈(すなわち「名」)を通されれば、従わざるをえないのだ。無理な拒絶は相手に対する礼を失すると同時に、道理を外すことにもなるからである。

「宴会の卓でもう一度」

中国人には、公式的な場と私的な場とを厳密に区別して、まったく違う振る舞いをすることが多い。これは日本人の「本音と建前」の感覚とよく似たものである。公式の場で決着がつかないときに、中国人はたちまち柔軟性を発揮し、会場の場からロビー活動へと動き出すのである。そしてこの場合は、原則論や官僚的な固い常套句は一切使わないようにつとめ、まるで困った友人同士が相談をするような雰囲気を作り上げる。その中で自分の方から譲歩できる範囲を小出しに伝えていったりするのである。

「調停役」によって双方を立てる折衷案

交渉が行き詰まった場合には、双方の論争がどんどんと激化し、感情的に暴走しやすくなる。それが嵩じると、たがいに面子をかけての争いに陥りかねなくなることがしばしば起きる。こうした局面に陥ったときの中国人の頭に閃くのが、第三者を捜してきて仲介役にし、調停を頼むことである。

相手側の「中国人通訳者」を利用

外国からの交渉団のなかに中国人が通訳者としている場合、彼ならば感情的にも理解と同調が得られやすい相手として、彼に中国側の代弁役をしてもらうことを考えるのは当然であろう。外国人の交渉者に対して直に言いにくい問題を、まず相手のなかの中国系通訳者を通して間接的に伝えようとする方法は、中国人がしばしば用いるやり方である。

「中国人との交渉術」より抜粋