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早飯吃好、中飯吃飽、晩飯吃少

岡田 章一

北京に居る頃の日常生活の中で、中国古来の言い伝えを中国人からいくつか教えてもらった。それらのどれを取ってもなるほどと頷けるものが多い。中でも私が気に入っているのは「早飯吃好、中飯吃飽、晩飯吃少」という言葉である。意味は「朝食はおいしく、昼食はたっぷりと、そして晩ご飯は少なく食すべし」ということだ。

健康で快適な人生を送るコツの一とされている。韻もうまく踏まれていて、この言葉の経てきた時間を感じさせる。これを聞いて、さて日本人サラリーマンの場合はどうかと考えた。これは私の場合なのだが、朝食はパンとコーヒー(モーニングサービスのレベル)でそそくさと済ませ、昼食は職場近くでお定まりのランチ定食をとる。分量は結構たっぷり。そして仕事のあと夜は一杯やりながら、一日の栄養補給も考えて満腹近くまで食べる。最近の健康セオリーからするとやや問題含みだが、まぁ一般的にはこんなものだろう。これを先きの言葉に言い換えると「早飯吃少、中飯吃飽、晩飯吃飽」といった感じになるのかもしれない。

日本の事情はともかく、中国の巷で何気なく言い伝えられているようではあるが、こうした古語はなかなか合理的に考えられているのである。どこからでもよいが、まず晩ご飯を少量に抑えることから始めるのが分かりやすい。晩から翌朝まで食間で一番長いのがこの時間帯だから、ここをコントロールできれば、自然に翌朝の食事がおいしくなる。一日の朝を満足な気持ちでスタートすれば、午前中は仕事もはかどり昼の食欲も湧いてくる。続く午後も肉体、精神ともにフル活動する時間帯なので、エネルギー補給は必要不可欠だ。そして、また晩ご飯を軽めにして、胃腸を休め睡眠を十分にとって翌日に備える。

こうした考え方が食事だけでなく、人生の様々な場面での「流れ」にも当てはめられる点が意味深い。たとえば人との付き合い方も同様である。よく初対面が大切と言われるように、まず人と初めて会う時には「味良く」好印象を与えるべし。そして関係が深まるに
つれて次第にお互いの力を入れていき、時には摩擦が生じる時もあるだろう。そして一区切りついたところで、「後味良く」余韻を残しながら、楽しい再会を期して別れる。これを繰り返して、物事の流れはうまく回転していくというわけだ。ビジネス会議などでも、終わりには良い「後味」を残し、次が待たれるようにするのが理想的だと言われた。

中国ではこのように、種々の人生訓がいたるところで生きている。人間への関心の深さがその底流にあるから、良い言葉が長い時間の中で磨かれて残っているのだろう。