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第2回 私営企業のタイプと特徴

李 年古

今後は日本のような外国企業が中国のビジネス業務を扱う場合には、あらゆる分野において私営企業が交渉相手として登場するケースが多くなってくるに違いない。これまで我々は、中国でのビジネスについては交渉相手を国有企業、あるいは政府機関と似た体質の会社を相手として想定するケースが多かった。だがこれからは、相手が私営企業となると事情は大いに異なってくる。その特徴なり、交渉のやり方なり、特に注意すべきことが多々生じているのである。それらを以下にまとめて紹介してみることにしたい。まず手始めに、私営企業のいくつかの顕著な特徴点を明らかにしてみよう。

初めに私営企業を便宜的にいくつかに分類してみることにする。

農民を主体とする「郷鎮企業」。

零細加工企業、部品生産業など。経営者は農村の下位幹部、農民たちである。現地の天然資源と安い労働力を武器に、市場の隙間(ニッチ )をねらって発展してきた企業だ。労働力の安さと自然資源の豊富さがこれら郷鎮企業の最大のメリットだと思われる。
例えば江蘇省無錫市にある華西村という村はたった300戸の農民からなる小さな村だが、既に29の企業を設立、94年の税引き前の利益は1.53億元。最近4年間の生産高は20億元超に達している。99年では株式の上場を実現した企業もある。

急成長してきた都市部の「私営企業」。

これらの企業には原始資本の過程で一つの共通した特徴が見られる。つまりオーナー社長が非常に投機志向の強い人間で、不動産や株や密輸などハイリスク分野に資金を賭けては大儲けをした類のビジネスマンであることだ。いわば一晩で自分の運命を変えた小市民といったところだろう。彼らはこの莫大な資金をテコに新しいビジネスチャンスを嗅ぎ回って探し出し様々な分野に進出する。こうした企業の一つ特徴は、財産をなした経緯、資産の多寡などは外部に知らせたがらないのが普通である。従って、オーナー社長を除く他の人間には会社の資産状況の実態が把握できていないことが多い。

権力と絡んだ「特殊な背景の会社」。

これは政府機関や人民解放軍、公安などの権力組織と深く関わる私営企業である。社長はだいたい政府高官の子弟や親戚、元の同僚や親友などが多い。中には権力者と金銭の取り引きをして、独占開発権や独占販売権等を握り、莫大な金を手にした企業もある。

このような会社には一つの特徴点がある。手がけている商売は常識的な考えからすると、一見儲からないように見え、現実的には不可能な商売のように見えることさえある種類のものだ。しかし、そこを権力者が幕の後から仕掛けて不可能を可能にするパワーを発揮し、会社に巨大な利益が流れるようにするのである。従って現実的には、経営の範囲によって特定の業者がその経営を統制監視する立場である権力機関と特別な関係を結んでいることが多い。例えば、風俗業や娯楽業が公安などと強く結びつき、輸出入の貿易会社は地元の税関と、運送関係では軍隊と、不動産開発会社は銀行や政府の都市建設開発局との関係を密にしている等々、といった具合である。

ただし、こうした企業は市場経済の進行によって勢いが落ちる方向にある上に、99年の初めに、軍隊がビジネス活動に参入することを禁止する中央政府の命令が公布され、続いて、密輸を厳しく取り締まる朱鎔基首相の強力な指導が発揮された。密輸業者と手を組んでいる一部の税関の高官も逮捕や処刑の運命にさらされた。これからも中国での政治と経済の癒着関係が依然として続く以上、私営企業が権力者との密接な関係作りを諦めることはないだろうが、権力者が直かに関わる特殊な会社は次第に減っていく傾向にあることは間違いない。

「ハイテク民営企業」

この種の企業のオーナー社長はほとんどが高学歴の持主である。創業者本人がハイレベル分野の専門技術や特許を持っていることも少なくない。例えば、前述した湖南遠大集団の張剣社長も中央エアコンシステムの核心的な部分の特許を持っている。中国ではこういった民営企業のオーナーを「儒商型実業家」と呼んでいる。つまり「伝統的な文化価値観に基づく企業管理を採用し、先端技術分野の産業を手がけている知識人・技術者タイプの実業家」であることだ。こうしたタイプの私営企業の中で一部の創業者は海外留学グループに属している。欧米や日本などで修士や博士学位を取得し、海外で豊富なビジネス経験を積んでいる人も少なくない。

中国民間企業とのビジネス交渉