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第5回 通訳官との接触は馬鹿にできない

岡田 章一

「中国では打率が二割ならば上出来ですよ」。某商社で長い間中国を担当する部長の言葉である。だがこれは野球の話しではない。じつは中国の有力な官僚たちと「朋友」関係を築く理想的な方法についてのことなのだ。この方法は、あくまで時間をじっくりとかけてという前提にはなるが、極めて有効なものだという。そしてこれを実行するには会社ぐるみで腰を据えて取りかかる決心が要る。それは将来有望と判断した官僚を、まだ若いうちに、つまり出世をする前にしっかり捕まえておくのである。そして時間が経過するに従いその若手が幹部になり政府の要人になっていくのを、親密なお付き合いを続けながら、じっと待つ。孫子の兵法というか、徳川家康流というか、まさに日中まざったじつに東洋的な長期戦略と言えるかも知れない。

中国で一般に朋友になれる条件と言われるものがあるが、それを縁の強さの順で並べてみると、まず血縁、そして同郷、学校の同窓、軍隊の同期…等々と出てくる。我々日本人にとっては、時には米国の大学で同窓生だったといったケースもあるが、いずれも難しい条件ばかりだ。その意味で、有望な若手を「青田刈り」で面倒をみておくことは、上記条件のいずれでもないが、それらに近い効果があるに違いない。商社などでは20~30年で中国一筋の担当者を据える人事もあるが、これなどは明らかに上記の戦略だ。

これは私の感じだが、こんな時に中国語が流暢であることというのは必ずしも重要な条件ではない。中国語の専門家なら確かに初めに入る時はいいが、やはり相手にとってはより広く世界を知る人物との接触の方が大事だ。だから何も中国語を慌てて勉強する必要はなく、英語で話ができれば十分だと思う。彼らにとっても、いつも外国人を相手にした英語の訓練と国際感覚が養えるのでよいと、ある中国幹部からじかに聞いたことがあった。

繰り返すが、将来の幹部を掘り当てるには、決してイチロー並みの打率を欲張ってはいけない。二割つまり十人に二人が出世すればよいのだ。しかし、その裏で大切なのは、あくまでそのような計算づくだけでは、簡単に朋友などはできるものではないという、当たり前のことが一つ。まずは生涯の友人ができれば幸せと考えるべきであり、そしてそれがヒットであればより幸運だったと考える心構えが肝要だろう。そしてもっとも大切なのは、これを会社ぐるみで長い期間にわたって徹底できるかどうか。つまり、基本的にその企業の中国プロジェクトに対する姿勢が問われるのだ、ということを忘れてはいけない。

中国人幹部との付き合い方